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『毎月定額、働かせ放題』? 固定残業代制ってどんな制度?④

  • 平田 啓基
  • 労働問題

「近年,従業員から会社に対して残業代の支払いを請求されるケースが多くなっています。そして,多くの会社が実際に残業代の支払いを余儀なくされています。
『うちは毎月残業代として決まった金額を支払っている』という経営者の方はいらっしゃりませんか?経営者の方とお話していると、固定残業代制を毎月定額で労働者を働かせ放題の制度と勘違いしているような印象を受けることがあります。
きちんとした法律のルールに従っていないと,支払っているつもりでも実際には残業代の支払いとして認められないケースがあります。
固定残業代制について弁護士が4回シリーズで解説します。」
 


 

■目次

 
5 勘違いしやすいポイント
 
(1)固定残業代制にすれば労働時間を管理しなくてよい?
 
(2)固定残業代制にすれば決まった額以上の残業代は支払わなくてよい?
 
6 固定残業代制を導入・運用する上で気をつけたいこと
 
(1)何のために固定残業代制を導入する?
 
(2)固定残業代制を導入する?変更する?廃止する?
 
(3)就業規則の不利益変更にあたらない?
 


 
過去三回にわたってお届けした固定残業代制解説シリーズの最終回です。
前回までは,
1 固定残業代制とは?
2 固定残業代制の効果
3 こんなに違う?法律のルールに従った場合とそうでない場合
4 法律のルールに従った固定残業代制とは?
について説明しました。
今回は,制度導入時の勘違いしやすいポイント,特に注意したい点についての解説です。
 
 

5 勘違いしやすいポイント

(1)固定残業代制にすれば労働時間を管理しなくてよい?

ここまでお読みいただいた経営者の方であればお分かりでしょうが,固定残業代制を導入した場合も労働者の労働時間の管理は不可欠です。労働時間を管理していないと,実際に支払うべき残業代を計算することができませんので,法律で求められる金額の残業代等を支払っているか確認のしようがありません。きちんと支払っていると確認できない以上,会社は残業代等を支払うことになります。
 
 

(2)固定残業代制にすれば決まった額以上の残業代は支払わなくてよい?

これも繰り返しになりますが,固定残業代制を導入しても不足する残業代は毎月きちんと計算して支払う必要があります。
固定残業代制は,“月額固定額で労働者を働かせ放題”というシステムではありません。毎月固定の人件費で労働者を長時間労働させるために固定残業代制を導入するというのであれば,おすすめできませんし,導入すべきではありません。(違法行為であり,訴訟リスクが高まります。)
 
 

6 固定残業代制を導入・運用する上で気をつけたいこと

(1)何のために固定残業代制を導入する?

そもそも固定残業代制の意味は,①給与計算を効率的にする,②能力の低い人の方が収入が高くなるということの不公平感をなくすことにあります。
②について少し説明します。
会社が2人の労働者に対し同じ業務量の仕事を与えた場合,能力が高い人は短時間で仕事を終わらせるので残業代は発生しませんが,能力の低い人の場合仕事が遅いので定時までに仕事を終わらせることができず残業代が発生してしまいます。つまり,能力の低い人は,能力の高い人と同じ業務量をこなしただけなのに残業代の分収入が多くなってしまうのです。そうなると,“ゆっくり業務をこなした方が得”と考えるのが合理的で自然ですよね。
このような不公平感をなくすための制度が固定残業代制です。固定残業代制においては,残業をしてもしなくてもあらかじめ決められた残業代を受け取ることができます。すると,労働者は,残業しなくても残業代を受け取ることができるのであれば,効率よく仕事を処理し定時に帰宅しようと思うはずです。労働者それぞれが“効率よく仕事をする”モチベーションをもつことで,会社全体の業務効率が上がり,会社の利益が最大化するという考え方です。
 
 

(2)固定残業代制を導入する?変更する?廃止する?

これから固定残業代制を導入する経営者の方は本来の趣旨にあった目的で制度を導入しようとしているのか専門家とともに再検討してください。導入目的を間違えると,後の紛争の原因になってしまうかもしれません。
また,現在固定残業代制を導入中の経営者の方は,制度の目的と実際の運用状況が合っているか今一度検討してください。多くの場合,法律のルールに従ったものにしようと,固定残業代制の内容を変更する必要があると思います。
さらに,導入中の固定残業代制を再検討した結果,制度を廃止した方がよいという結論になる経営者の方もいらっしゃるかと思います。
 
 

(3)就業規則の不利益変更にあたらない?

これから固定残業代制を導入する経営者の方も,今ある固定残業代制を法律のルールに従ったものに作りかえるという経営者の方も,固定残業代制を廃止するという経営者の方も,きちんとした導入・変更・廃止の手続をとらなければなりません。
固定残業代制の導入等をする場合,ほとんどのケースで就業規則の不利益変更という手続が必要です。この手続をきちんと実施していないとせっかく導入等した固定残業代制が無効と判断されるかもしれません。
就業規則の変更は,労働者と会社の契約内容を会社が一方的に変更するものです。労働者にとっても影響が大きいことが多く,裁判などで争われることが非常に多い問題です。
したがって,固定残業代制の導入等,就業規則の不利益変更を行う場合は,必ず労務問題を取り扱う弁護士等専門家に相談してください。
 
 

まとめ

以上で固定残業代制のシリーズ解説は完了です。
固定残業代制は,多くの経営者が導入しているにもかかわらず,適切に運用されているケースは少なく,裁判等で争いになりやすい制度です。そして,裁判等で争いになった場合,多くのケースで会社が残業代等を支払うことになります。
争いになる前に,争いにならない制度設計をすることが何よりも大事です。
まずはご自身の会社の給与規定をご覧いただき,不安になった方,確認したい方,お気軽に当事務所にご相談ください。

 

 

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