お問い合わせ

弁護士コラム

『毎月定額、働かせ放題』? 固定残業代制ってどんな制度?③

  • 平田 啓基
  • 労働問題

「近年,従業員から会社に対して残業代の支払いを請求されるケースが多くなっています。そして,多くの会社が実際に残業代の支払いを余儀なくされています。
『うちは毎月残業代として決まった金額を支払っている』という経営者の方はいらっしゃりませんか?経営者の方とお話していると、固定残業代制を毎月定額で労働者を働かせ放題の制度と勘違いしているような印象を受けることがあります。
きちんとした法律のルールに従っていないと,支払っているつもりでも実際には残業代の支払いとして認められないケースがあります。
固定残業代制について弁護士が4回シリーズで解説をお届けします。
 


 

■目次

 
4 法律のルールに従った固定残業代制とは?
 
(1)基本給と残業代の区別が出来ること
 
(2)不足の残業代はきちんと支払う
 
(3)残業代とすぐに分かる名称を
 


 
前回は,法律のルールに従った場合とそうでない場合の,割増賃金額の計算方法について,ご説明しました。その違いに驚かれた方も多いのではないでしょうか。
前回の内容を踏まえ,今回は,法律のルールに従った固定残業代制の設計について解説します。
 
 

4 法律のルールに従った固定残業代制とは?

(1)基本給と残業代の区別できること

では,法律のルールに従った固定残業代制とはどのようなものでしょうか。
法律のルールに従った固定残業代制を導入する上で,もっとも大切なことは,固定残業代と基本給を区別できるように制度設計することです。とくに基本給組入型では注意が必要です。
 
~基本給組入型例① “基本給30万円に固定残業代を含む”というパターン~
上であげた基本給組入型例①のように“基本給30万円に固定残業代を含む”という制度では,基本給のうちいくらが残業代なのか分かりません。これでは,上でみた具体例のように,きちんと残業代が支払われているのか計算することもできません。
このように,そもそもきちんと残業代等が支払われているか分からないケースでは,固定残業代制は無効と判断されてしまいます。
 
~基本給組入型例②“基本給30万円には,1か月30時間分の時間外労働に対する割増賃金を含む)”というパターン~
また,基本給組入型例②のように基本給の金額とともに固定残業代が何時間分の残業代に充てられるか記載した場合,就業規則で所定労時間が決まっていれば,固定残業代部分とそうでない部分を判別して計算することが可能です(固定残業代をX,時間単価をYとする連立方程式を使って計算する。)。
就業規則上の所定労働時間を確認すれば,固定残業代がいくらで,それ以外の基本給部分がいくらかは計算できるので法律のルールに従っていると一応いえそうです。
しかし,裁判官の中には,会社が固定残業代とそうでない部分を計算する具体的な方法を労働者に対して周知させておくなど適切な運用がなされていない場合には,基本給組入型例②のような場合に有効な固定残業代制とは認めないという厳しい意見もあります。
 
~基本給組入型例③“基本給30万円のうち,6万円は,1か月30時間分の時間外労働に対する割増賃金分とする”というパターン~
もっとも,安全な方法は,基本給組入型例③のように,固定残業代の金額とそれが何時間分の残業代等になるかを明記する方法です。しかし,実際に何時間分の残業代を固定額で支払うかは慎重な判断が必要です。(多すぎると実際の業務量のわりに人件費が高くなります。少なすぎると,給与計算効率化のメリットも少なく,労働者のモチベーションを高める効果もあまりありません。詳しくは,後記6(1)をご参照。)
 
 

(2)不足の残業代はきちんと支払う

法律のルールに従った固定残業代制の大切なポイントその2は,予定していた残業時間を超えて残業させた場合には,不足する差額割増賃金をきちんと支払うということです。
前記3(1)の具体例を使って,説明します。
 
例 手当型固定残業代制で基本給と別に固定残業代手当5万円を支払っているケース
“ 基本給20万円,固定残業代手当6万円(1か月30時間分),合計26万円
  1か月あたりの所定労働時間170時間 “
という例で,実際の残業時間が50時間だったとします。
すでにみたように,(時間単価)は1176円,(割増賃金単価)は1470円となります。
この場合,
(支払わなければならない割増賃金)
割増賃金単価1470円×50時間=7万3500円
(不足する差額割増賃金)
7万3500円-固定残業手当6万円=1万3500円
このうち,固定残業代として6万円は支払い済みですので,追加で支払うべきは1万3500円となります。
このように,不足する残業代等が発生した場合にはきちんと計算して差額を支払うことが必要です。そして,給与明細にはきちんと残業代等の不足分であることがわかるように記載しておきましょう。
 
 

(3)残業代とすぐに分かる名称を

法律のルールに従った固定残業代制のポイントその3ですが,固定残業代なら固定残業代とすぐに分かる名称にしておきましょう。
よく“営業手当”という名称で,その一部又は全部を残業代として支払っているという経営者の方がいらっしゃいます。しかし,会社としては残業代のつもりでも,労働者からすれば“営業手当”という名称からは,それが時間外労働の対価(残業代)なのかどうか分かりません。
裁判例では“営業手当”などの名称に残業代の意味が込められているかどうかはよく争いになります。これは“固定残業手当”など一見して残業代と分かる名前をつけていれば回避することができる争いです。
余計な争いを回避し,予想外の残業代等を支払うリスクを避けるためにも固定残業代には一見してそれと分かる名称をつけましょう。
 
 

まとめ

今回は,固定残業代制についてのシリーズ解説の第3回目,実際の制度設計についての重要な点をご説明しました。
次回は,固定残業代について勘違いしやすいポイント,そして,導入と運用にあたって特に気をつけたい点について,解説していきます。
さらに詳しく自社の場合について知りたい方は,ぜひ当事務所までご相談ください。

 

 

弁護士コラム

弁護士コラム 一覧を見る