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『毎月定額、働かせ放題』? 固定残業代制ってどんな制度?②

  • 平田 啓基
  • 労働問題

「近年,従業員から会社に対して残業代の支払いを請求されるケースが多くなっています。そして,多くの会社が実際に残業代の支払いを余儀なくされています。
『うちは毎月残業代として決まった金額を支払っている』という経営者の方はいらっしゃりませんか?経営者の方とお話していると、固定残業代制を毎月定額で労働者を働かせ放題の制度と勘違いしているような印象を受けることがあります。
きちんとした法律のルールに従っていないと,支払っているつもりでも実際には残業代の支払いとして認められないケースがあります。
固定残業代制について弁護士が4回シリーズで解説をお届けします。
 


 

■目次

 
3 こんなに違う?法律のルールに従った場合とそうでない場合
 
(1)具体的なケースでイメージ
 
(2)法律のルールに従った場合とそうでない場合の違い
 
(3)固定残業代制の導入・運用を誤ると黒字企業が赤字に?
 


 
前回に引き続き,固定残業制の解説,第二回目です。
前回は,「固定残業代制とは?」「固定残業代制の効果」に絞ってご説明しました。
今回は,法律のルールに従った場合とそうでない場合について,会社が負担することになる割増賃金の違いを具体的に計算してみます。
 
 

3 こんなに違う?法律のルールに従った場合とそうでない場合

(1)具体的なケースでイメージ

法律のルールに従った固定残業代制とそうでない場合で支払う割増賃金の金額の違いを実際にみてみましょう。
例 手当型固定残業代制で基本給と別に固定残業手当を支払っているケース
 
“ 基本給20万円,固定残業手当6万円(1か月30時間分),合計26万円
  1か月あたりの所定労働時間170時間 “
 
という労働条件の労働者がいたとします。
この労働者が,実際に30時間の時間外労働をした場合に,法律に従った(有効な)固定残業代制と,そうでない(無効な)場合で支払わなければならない給与の金額を計算してみましょう。
 
[法律のルールに従った場合]
(時間単価)
基本給20万円÷170時間=1176円
(割増賃金単価)
時間単価1176円×1.25=1470円
(支払わなければならない割増賃金)
割増賃金単価1470円×30時間=4万4100円
(総支払額)
基本給20万円+固定残業手当6万円=26万円
この場合,固定残業代として6万円を支払っていますので,会社が追加で支払わなければならない残業代は0円です。
 
[法律のルールに従わない場合]
(時間単価)
基本給26万円(※)÷170時間=1529円
(割増賃金単価)
時間単価1529円×1.25=1911円
(支払わなければならない割増賃金)
割増賃金単価1911円×30時間=5万7330円
(総支払額)
基本給26万円(※)+割増賃金5万7330円=31万7330円
※法律のルールに従わない固定残業手当は,残業代等として認められませんので,固定残業手当も含めて基本給と扱われます。そのため,このケースの場合,会社は,労働者に対して5万7330円の残業代等を支払わなければなりません。
 
 

(2)法律のルールに従った場合とそうでない場合の違い

具体例でみたように,法律のルールに従わない固定残業代制は残業代として認められません。残業代等として認められない以上,固定残業手当分も含めて割増賃金の計算をするときの基礎賃金としなければなりませんので,時間単価が上がります(具体例でいうと,1176円が1529円に!)。時間単価が上がるということは割増賃金単価も,割増賃金単価が上がるということは,結局,支払うべき残業代の金額が上がるということです。
 
 

(3)固定残業代制の導入・運用を誤ると黒字企業が赤字に?

このように,法律のルールに従った場合とそうでない場合で,支払うべき給与の額が大きく変わります。具体例のケースでは,1か月あたりに支払うべき給与総支払額が,26万円から31万7330円と約22%も増えました。具体例のケースは決して大げさなものではありません。固定残業手当を大きくしている会社であれば,もっと給与総支払額が増えます。
法人企業統計年報によれば,全産業平均でみた場合,売上高に占める人件費の割合は15%弱だそうです。残業代の追加支払いによって人件費が予定よりも22%上がるということは,売上高の約3%にあたる金額の現預金が会社からなくなるということです。
中小企業の売上高に占める経常利益の割合は2%未満であるところが多いそうです。経常利益が売上高の2%の企業が,売上高3%に相当する追加の残業代等を支払うことになれば,黒字企業が赤字に陥ってしまうことになります。
 
 

まとめ

このように,法律のルールに従わない固定残業代制を導入・運用することは,会社の経営を左右しかねない重大な追加人件費の支払いをもたらすリスクがあります。ぜひしっかり対応したいところです。
今回は,固定残業代制についてのシリーズ解説の第2回目をお届けしました。固定残業代制は,多くの経営者が導入しているにもかかわらず,適切に運用されているケースは少なく,裁判等で争いになりやすい制度です。そして,裁判等で争いになった場合,多くのケースで会社が残業代等を支払うことになります。
次回は,「法律のルールに従った固定残業代制とは?」というテーマで,引き続き解説します。

 

 

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